適材適所。ワイルドすぎて引き取り手のなかった野良猫たちの永久就職先はネズミの被害で困っている場所へ(シカゴ)

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アメリカ、イリノイ州シカゴはここ数年、全米「一番ネズミの多い都市」かもしれない。害虫駆除会社大手のオーキン社によると、2016年度のネズミによる被害件数は前年から67パーセントも増えているという。

暖冬だとネズミの繁殖時期は長くなる。今年は暖冬で、景気が回復中のシカゴでは多くの建設工事が行われており、ネズミたちは行き場を失くし、新たな不動産物件を探し走り回っている。

ネズミはかつて文明を滅ぼしたほど多くの病原菌をばらまいていく。そこでスポットがあてられたのが「最終兵器猫」である。野良猫を保護している施設「ツリーハウス」では、野性味が強すぎて里親が見つからなかった猫たちを、ネズミの被害で困っている施設や工場で飼ってもらうことにしたのだ。

ワイルドだけにネズミの駆除はお手のものだ。

Are cats the ultimate weapon in public health?

シカゴでビール醸造会社、エンピリカル・ブルーアーを営むネヴィン・マクコウンさんはネズミの害に悩まされている一人だ。洞窟のような倉庫の設備電源を切り、荷物をまとめて顔を上げると、そこには必ずヤツらがいる。

「足のサイズくらいあるネズミが座っていて、“まだ帰らないの?僕はお腹ぺこぺこなんだから、早く帰ってくれよ”とでも言いたげな表情で私を見上げてくるんです」とマクコウンさんは語る。

ビクトリア・トーマスさんもネズミ被害者の会の一人だ。彼女が暮らす家の近くには7匹の犬が住んでいる。その裏庭は犬の糞が放置されっぱなしで「ネズミ様食べ放題」状況となっているという。彼女が所持しているマンションの裏庭もその被害にあい、ネズミがうろつくようになってしまった。また、近隣にあるレストラン経営者たちもネズミ問題に対して熱心に取り組んでくれないそうだ。

藁にもすがる思いで、トーマスさんは受話器を取り電話をかけた。今回の電話先は市役所ではなく、ツリー・ハウス・ヒューマン・ソサエティーという、病気の猫のリハビリや負傷している野良猫を保護している団体だ。1971年に創立されたツリー・ハウスはアメリカ国内で初となるケージなし、殺傷なしの猫のシェルターとして有名だが、今ではネズミ対策の革新的な救世主として知名度が高い。

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タイプワイルドの猫が困っている人々の救世主へ

ツリー・ハウスが世話している猫の大半はペットとして飼うことができるが、中には一生かけても人間のペットとしては向かないようなワイルドで人になつかない猫もいる。

2007年までは、市の法令としてこのような猫は殺すしかなかった。しかし、2007年に条例が変わり、野良猫総合管理法令のもと、ツリーハウスのような動物団体は、野生猫を罠にかけ去勢手術を行えばもとの縄張りに戻してやることができるようになったのである。

ツリー・ハウスは今では3600匹の猫、650のコロニーを管理している。しかし、中には少数だが、もとの縄張りに帰しても脅威となる猫たちがいる。そこでツリー・ハウスは新しいアイデアを思いついた。そんなタイプワイルドな猫たちを、ネズミ駆除部隊として働いてもらうのだ。

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最終兵器猫

猫は害獣駆除者として過去1万年以上働いている。人類初の農耕を始めて穀物を保管していたナトゥフ人だが、穀物のあるところにはげっ歯類たちも現れる。そこでネズミ達を狩っていたのが野生の猫だった。

夜行性で敏捷な猫は狩りをするにもわずかな光しか必要としない。げっ歯類も夜に活動するので、猫は彼らの恐ろしい天敵となりえるのだ。

その後、猫たちはニューヨークの倉庫、ディズニーランド、第二次世界大戦中の船の中でもネズミ駆除者として大活躍してきた。さらにはダウニング街10番地(英国首相官邸)では英国首相さえ守っていた。(その猫、ラリーはネズミ狩りには向いていなかったそうだが...)

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向き不向きはあるが、猫にはネズミを狩る習性がある。これらの歴史から、ツリー・ハウスのスタッフたちは「働く猫プロジェクト」を5年前に立ち上げた。そして、このプロジェクトは助けが必要な人たちのもとへ広がっていった。

現在プロジェクトを管理しているポール・ニッカーソンさんは、本人自身がこのプロジェクトの初期の顧客だったという。当時、家の向かい側にあった工場が解体されて、ネズミの被害に悩まされていたのだ。

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猫たちにいついてもらうため、環境づくりから

ツリー・ハウスは猫を引き渡すだけではない。「正直に言うと、猫たちにはそこに居る理由がないんです。彼らにとっては新しい場所で、何の接点もないのですから」とコミュニティ・キャッツ・プログラムマネージャーのリズ・ホーツさんは言う。

そんな猫たちに新しい場所に慣れてもらおうと、スタッフたちは巨大な木箱を使ってトイレ、爪とぎ、おもちゃ付きの、雨をしのいでくれる“猫のアパートメント”を用意する。

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猫が新しい土地やにおいや、お互いに慣れるまで約4週間かかるという。コロニーの管理者も1日2回餌を与えること、シェルターを用意すること、必要があるときは獣医に連れていくことに同意する。

猫はネズミを食べることもあるが、同時にネズミがその場に近寄らないよう遠ざけてくれる。猫はおしっこではなく、ただ体をこすりつけることで縄張りを示すが、そのにおいによりネズミが近寄らなくなるそうだ。

1度猫が配置されると、ネズミの数は一気に減る。「他のネズミは猫のフェロモンのかすかなにおいを嗅ぎ取り、そのエリアから逃げ出します」、「げっ歯類の対策としては、ほぼ100パーセント効果があります」とホーツさんは話してくれた。

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「働く猫プロジェクト」の費用は猫3匹で約6万円だ。しかし、値段は受け取る人の懐具合で交渉できる。トーマスさんは、パッチ、フラッフィー、スキンネリアの3匹を引き取り、その効果に満足している。

「すぐにネズミたちが逃げ込む穴を見つけました。猫たちが来て以来、庭でネズミの姿を見ることはありませんでした」とトーマスさんは語る。

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3匹の猫は今や裏庭でリラックスした様子で過ごしている。

更にその効果は近所にも及んだ。近所の人たちもネズミの被害が減ったとトーマスさんにお礼を言うようになった。猫たちの存在は彼らの裏庭からもネズミを追い払ってくれたのだ。

前出のビール醸造会社、エンピリカル・ブルーアーでは一年半前に4匹の猫を飼い始めた。彼らは完璧なネズミバスターズとなった。小さなメス猫のゴーザは小さいが、巨大なネズミにさえ立ち向かえる素質があった。

「ゴーザは破壊者ですが、真の姿は可愛い女の子なんです」とマクコウンさんは笑顔で言った。

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ブルーアーが猫たちを招く前は、ネズミが穀物袋に穴を開け、そこから餌となる穀物を盗んでいた。スタッフは1年で約91キロもの麦芽を捨てなければいけなかった。しかし、猫が来てからは麦芽を捨てる必要は完全になくなった。

スタッフたちは猫のために「ダークタワー」と名付けたシェルターを建てた。このシェルターには棚と窓とドアが付いている。醸造見学ツアーに参加すると、この猫たちやタワーを見ることもできる。見学者の中には猫目当てで来る人もいるのだとか。

「猫のおかげで仕事がより楽しくなり、ネズミ達にも悩まされずに安心して働くことができます。彼らは私の穀物の守護者でもありますしね」とマクコウンさんは嬉しそうに語ってくれた。

ネズミの恐ろしさ

アジアに端を発し1347~1353年にヨーロッパに広まった歴史上最大のペストの流行、黒死病ではヨーロッパだけで2000万人、全世界で7500万人が亡くなったとされる。黒死病などは現代薬学の進歩により治療や発症を抑えることも簡単になったが、まだまだ注意が必要なのが、ネズミが保有している耐抗生物質の大腸菌や抗菌薬関連大腸炎、下痢などの菌だ。万が一ネズミに噛まれて発症してしまったら治療は難しい。ネズミはそれほど恐ろしい存在なのだ。

ネズミは人間に近寄ったり噛んだりしなくても、排泄物で病気を広めることができる。また体から抜け落ちる毛が換気装置により広範囲に拡散される危険性もある。

カナダ、バンクーバーで害獣の研究しているチェルシー・ヒムスワース博士が、メシチリン耐性黄色ブドウ球菌が蔓延している場所から来たネズミを調べたところ、ネズミたちも同じメシチリン耐性黄色ブドウ球菌を持っていたことが判明している。

「ネズミは病原体の温床です。彼らはどんな環境でも生存でき、危険なものすべてを吸収し、人間のところに運んでくるのです」とヒムスワース博士は語る。

気候変動と前例のない都市化により、ネズミ問題はこれからも拡大するだろう。

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シカゴネズミ戦争

シカゴの対ネズミ戦争では、今年4月に新しい齧歯動物対策部隊が設置された。ネズミをパトロールする作業員も10人以上増加し、戦闘準備は万全のようだ。データ分析のチームがネズミがどこにいるかを予測し、市の作業員がその場所に集中的に毒をまいたり、ネズミの穴に新聞を入れて塞いでいる。

さらに市民の問題意識を高めるキャンペーンを行った。

「ネズミの餌がなければ、彼らは繁殖することもできない」という黄色い警告標識を掲げて、ネズミに餌を与えない環境を生み出すことをアピールした。

「住民はどうしてネズミが餌を手にれられるのか認識する必要があります」と話すのはシカゴの街路/公衆衛生の理事であるチャールズ・ウィリアム氏である。「食べ物の管理が、ネズミを管理することにつながる」と語るウィリアム氏は犬の飼い主をピンポイントで指摘している。ウィリアム氏によるとネズミの好物は犬の大便で、犬の排泄物をきちんと処理することが一番簡単な対策だと言う。

 

 

 

 

 

 

 

引用元:http://karapaia.livedoor.biz/archives/52222391.html

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